映像で見るだけでも心を癒してくれる美しい景観の世界遺産のことはよく知られています。しかし、世界遺産の一部が「危機遺産」になっていることはあまり知られていません。
「危機遺産」とはまさに「危機にさらされている世界遺産」のことです。
その「危機」とは武力紛争、自然災害、大規模工事、都市開発、観光開発、商業的密漁など多岐にわたります。
また、人間が生活をしていく中で「危機」が起きてしまうケースも少なからずあります。
フィリピン、ルソン島の「コルディレラの棚田群」はまさにそのようなケースでした。
「コルディレラの棚田群」は山岳民族イフガオの人々が標高2000mを超すコルディレラ山脈の峰々に作り上げた棚田です。
その歴史は16世紀にフィリピンがスペインによる植民地支配を受けたことに始まります。
平地での住処を奪われたイフガオの人々は山岳地帯に移り住み、急斜面の山々を切り開き、棚田を作り、生活し始めたのです。
大変な努力でつくられた棚田は山頂に熱帯雨林を頂き、その豊かな水を引き美しくひろがっていました。しかし世界遺産に認定されていたその美しい棚田は2001年に「危機遺産」に指定されてしまいました。
その大きな原因は家を建てるためや、薪として山の木を過度に伐採したことでした。また現金収入を得るために焼き畑をして野菜などを作ったことも原因になりました。
このように貧しい人々が生きていくために「危機」を引き起こしてしまうことは発展途上国でよく目にする悲しい現実です。
しかし、「コルディレラの棚田群」は2012年に「危機遺産」から脱します。
国内外からの支援もありましたが、何より、そこに暮らすイフガオの人々が棚田修復のために懸命な努力をしたことによります。
20年以上植林活動を続けているイフガオのサントスさんはこう語ります。
「イフガオでは木彫りで生計を立てている人が多くいます。材料の木はとても大切なのですが、以前は植林をしていませんでした。でも、今は次の世代のために木を植えなくてはならないのです」
そしてサントスさんはこう続けます。
「森に木を植えることは棚田を守り、イフガオの伝統をまもることです」
今、私たちは気候変動による危機の時代に生きています。
都会生活をしている私たちにはイフガオの人々の植林活動のような、地に足のついた直接的な環境保護活動はできません。
しかし、庭の草木の手入れをする、エコバッグを使う、フードロスの無い生活をする、環境に配慮した製品を購入する、このように日々の生活のいろいろな場面で私たちにできる環境保護活動はあります。
自分の将来のため、そして次の世代のためにも地道に行動していく事が、今、私たちに求められていることだと思います。